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完璧主義と隙

10月6日
読了時間: 5分

更新日:10月8日

世界には、数多くの生地メーカーがあります。

イタリア、イギリスをはじめ、それぞれのメーカーが長い歴史の中で培ってきた技術があり、ものづくりに対する哲学があります。

どれが優れているということではありません。


気候や伝統から重厚さを追求するブランド。

色彩の美しさを大切にするブランド。

触れた瞬間の質感や、身体にまとったときのエレガンスを追求するブランド。


生地を見ていると、その一枚の向こう側にある「美学」を感じることがあります。

今回は、その中から写真のスーツに使用した、イタリアを代表する生地メーカーの一つ、”Loro Piana(ロロ・ピアーナ)”についてお話ししたいと思います。


羽織った瞬間に伝わるもの

写真のスーツは、今年のコレクションの生地で仕立てたものです。

Loro Pianaは、創業家から受け継がれてきた”美への完璧主義”、品質への強いこだわりを持ち、ウールやカシミヤをはじめとする上質な天然素材を追求してきました。


Loro Pianaの生地に触れていると、いつも「美しい」と感じます。

それは単に、色が綺麗だからという事ではありません。

単に柔らかいからでもない。

身体に羽織り、肌に触れ、鏡の前に立ったときの美しさ。

素材の柔らかさ、光沢、ドレープと身体の動きによって変化する表情。

それら全ての瞬間に、エレガンスを感じる。


「身に着けた瞬間、芸術性すら感じる」


生地に込められた哲学や美学は、言葉で説明されなくても、五感を通して人に伝わるものなのだと思います。



完璧だからこそ「隙」をつくる

いつもスーツを仕立てるときに、テーマを決めます。

今回は、


「完璧と抜きの両立」


Loro Pianaの生地そのものには、十分な美しさと品格があります。高級な生地で仕立てる際は、品格を落とさないように完璧を求めがちです。

だからこそ、フォーマルのルールに沿って隅々まで端正にまとめた「完璧なスーツ」をつくるのではなく、どこかに“抜き”をつくりたいと思いました。


私は、この“隙”がとても大切だと考えています。

隙とは、やり忘れたミスではありません。

また、カジュアルでもありません。


相手に対する敬意を保ちながら、威圧感を与えないこと。

きちんとしているけれど、近寄りがたい人にはならないこと。


「素敵ですね」

「少し話してみたいな」


そう思っていただける"余白"を装いの中につくることです。

それは、偶然ではなく、意図してつくるエレガントな隙です。



ディテールには、すべて理由がある


その考えから、ジャケットにはアウトポケットを採用しました。

一般的なフラップポケットよりも柔らかな印象になり、スーツが持つ緊張感を少し和らげてくれます。

肩まわりには、ナポリ仕立てを思わせる柔らかな表情を。

袖付けには、いわゆる「雨降り袖」と呼ばれる、細かなギャザーが現れる仕立てを取り入れています。

端正でありながら、柔らかな、そしてどこか軽やかな表情を目指しました。


一方で、柔らかくするだけではLoro Pianaの持つ品格が失われてしまいます。

そこで胸元には、船底のような美しい曲線を描くバルカポケットを。

胸元にさりげない立体感を与え、生地の美しさとスーツとしての威厳を残しています。


袖口は本切羽。

ボタンを実際に開閉できる仕立てにすることで、その日のTPOや着こなしに応じて袖口の表情を変えられるようにしました。

ボタンをすべて留めれば端正に。少し開けば、わずかな抜け感を。

ほんの小さな変化ですが、装いの印象は変わります。


パンツにも、同じ美学を

パンツについても考え方は同じです。

今回の生地が持つエレガントで軽やかな雰囲気を活かすため、サイドアジャスターではなく、あえてベルトループを付けました。

ベルトを変えることで、装い全体の印象を調整できるようにするためです。

腰まわりは、すっきりとした美しさを求めてノータック。

そして裾は、生地の軽やかさを邪魔しないよう、ノークッションのシングル仕上げとしました。

靴の上に余分な生地を溜めず、パンツから靴へと流れるラインを美しく見せる。

ジャケットからパンツ、そして足元まで。

一つひとつのディテールが独立しているのではなく、すべてが一つの考え方でつながっています。


服は、その人の価値観を静かに語る


人は、こうした細かなディテールを一つひとつ見ているわけではありません。


「雨降り袖だから素敵だ」

「バルカポケットだから美しい」


そう分析して相手を見る人は、ほとんどいないでしょう。

けれど、人は感じます。


「品がある」

「柔らかな雰囲気がある」

「素敵な人だな」

「少し話してみたいな」


数ミリ、数センチの違い。

素材、曲線、シルエット、仕立て。

その小さな選択の積み重ねが、その人の佇まいとなって表れます。


そして、良い装いとは、その人を必要以上に飾るものではなく、その人がもともと持っている美しさや価値観を、静かに引き出してくれるものだと考えています。


美しい生地を選ぶ。

美しいスーツを仕立てる。


しかし、そこで終わりではありません。

その一着をまとった人が誰かと出会い、言葉を交わし、色々な人と関わり人生の時間を過ごしていく。

そこまで想像しながら、一つひとつを選んでいく。

それが、BELLFORAの考えるオーダーの美学であり、哲学です。


何を大切にし、何を残し、どこに余白をつくるのか。

そして、自分はどう在りたいのか。

その答えが一着の中に静かに表れていること。


それこそが、BELLFORAが考える「美しいスーツ」です。


 
 
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